クリエイター対談 佐藤可士和×辻口博啓 「クリエイティブの流儀」

今、世間の注目を一身に集めるクリエイター、佐藤可士和氏。新世代の携帯をはじめとするプロダクトデザインや、ユニクロの世界戦略に代表される企業広告や空間デザインなど、そのフィールドは海外にも広がっている。同じくパティシエのフィールドを広げ続ける辻口シェフとの対談は、トップをひた走るクリエイター2名による熱いトークセッションとなった。
取材・文:並木麻輝子・児玉磨由子  撮影:堂谷健吾

表面よりも本質に焦点を合わせた可士和スタイル

辻口:今回は日本が世界に誇るクリエイター、佐藤可士和さんにお越しいただきました。佐藤さんとは、雑誌「H-STYLE」の対談をはじめ、これまで何度もお会いして、非常にウマが合うなと感じたので、今日も楽しみにして来ました。さて、今日は「スタイル」というテーマで話を進めたいと思っているんですが、佐藤さんは、クリエイターとして、スタイルということについて、どうお考えですか。

佐藤:僕は大学卒業後に博報堂に入って、初めの5年間くらいはすごく悩んでいたんです。その頃は、「クリエイターというものは表面的にスタイルを確立させないといけない」って思い込んでいたんだけど、なかなかうまくいかなくて。ある時、「一度そういうことを忘れてプロジェクトに真摯に向き合ってみよう」と思い始めたら、自然とうまくいくようになったんですよ。現在はすごくシャープなものからカワイイものまで幅広くやっていますが、その時々で扱うものは違っても、物のとらえ方とかコンセプトレベルで、おのずと自分らしさって出ているんじゃないかな。だから今は、表面的なスタイルを追うより、本質をちゃんとつかまえたいと考えています。

辻口:本質をつかまえるために、世界の情勢であったり、クリエイティビティに関する情報収集は日頃からやっているんですか。

佐藤:今、30くらいのプロジェクトを同時に進めていて、そうすると各分野の先端情報が自然と入ってくるんですね。わざわざ集めなくても仕事をすることが一番の情報収集になっているわけです。辻口さんと仕事をしたとしてもきっと同じで、それによって、ものすごい量のスイーツ業界の情報が入ってきますよね。
佐藤可士和

辻口:そうかもしれませんね。ところで、自分のアイデアを世の中に出す時に、「もしかしたら似たようなことをもう誰かがやっているのでは?」と気になることはないですか。

佐藤:もちろんなくはないですけど、「似たようなことを考えている人は他にもどこかにいるだろうな」と、最初から思っているので、あまり気にしていないです。どの仕事も、シンボルマークを作って終わりというものではなく、複合的なものなので、すべてが一致するということはないと思うんです。
僕が以前、SMAPの広告のデザインをした時にも、似たようなデザインが一斉に広告に使われたことがありましたけど、それだけ珍しいものだったということですよね。ちなみにその時のアイデアというのはグラフィックデザインを主役にしたもので、当時は画期的なことだったんですよ。

感性をもってフィールドを飛び越える

辻口博啓

辻口:佐藤さんは誰もやらなかったことをして、まったく新しい場を作り出しながら、フィールドを押し広げて行っていますよね。

佐藤:確かに、幼稚園の仕事を手掛けたかと思うと、大学で教えたりね。

辻口:普通はグラフィックデザインからそういったことまでやったりはしないと思うんです。だけど佐藤さんはフィールドに枠を置かず、マルチに何でもこなしていますよね。基本的に「自分ならなんでもできるぞ」という感じなんですか?

佐藤:わりとそうですね(笑)。だって、僕がやっていることって、自分にとってはずっとデザインなんですよ。

辻口:デザインとしてひっくるめてしまえばみんな同じということ?
佐藤:そうなんです。普通そういう見方はしないのかもしれないけど、僕はもっと気楽に考えているんですよね。たぶん、辻口さんでいえば、そのとき手にする素材がチョコであれ、きな粉であれ、結果的にスイーツを作っている作業には違いないという、総体的なとらえ方というか。

辻口:その認識の仕方は理解できますね。

佐藤:美術大学生時代に、パンクバンドをやっていたんですけど、あるとき、作曲をしつつ、ふと「これって絵を描くのと同じことなんじゃないかな?」と思ったんです。絵を描くのと同じスキルで音楽を作っているんだな……と。それに気づいた瞬間に、自分はわりと何でもできるのかもしれないと思えたんです。

辻口:佐藤さんは携帯の着信音まで作っていますよね。「そんなことまでこなしてしまうのか!?」って、びっくりしましたよ(笑)。

佐藤:そうですよね(笑)。プロダクトデザインにしても、携帯電話のデザインをやった時に、最初僕があまりに専門的な知識がないので、たぶん業界の人たちからは冷ややかに見られていたと思うんです。でも結果的にはその会社で一番のヒットになった。やっぱり、知識だけが重要ではないということなんだと思います。

辻口:要するに、感性で勝負しているってことですか?

佐藤:感性とか、物の見方やとらえ方。そこが本当のクリエイションなんじゃないかな。もちろん知識はあった方が良いので、さまざまなことにいい形で取り組むために、知らないことは知らないと臆せずに言うよう心掛けています。

佐藤可士和プロフィール

佐藤可士和「サムライ」アートディレクター/クリエイティブディレクター 佐藤可士和
株式会社博報堂を経て、2000年独立。同年、クリエイティブスタジオ「サムライ」を設立。主な仕事に、SMAPなどミュージシャンのアートワーク、携帯電話のプロダクトデザイン、ユニクロNYグローバル旗艦店のディレクション、幼稚園のリニューアルプロジェクト、国立新美術館のシンボルマークとサイン計画など。
ブランディングを手がける明治学院大学では、客員教授も兼任。東京ADCグランプリ、毎日デザイン賞ほか、受賞多数。
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